Part1 まずはサンフランシスコへ

アメリカ化学学会(American Chemical Society)は実に大きな学会です。世界中に会員をもっており、その数はざっと15万5千人。会員になるための特別な資格は要りません。単にインターネットで登録すればいいだけのことです。しかし、学会に出席するには、440ドル必要です。けっこう高い。毎年、2、3回、どこかで学会を開いています。今回は239回目で、3月21日(日曜日)~25日(木曜日)の5日間、サンフランシスコで行われます。次回は8月ボストンで開かれます。また、12月にはハワイです。

そもそも、医者である僕が、なぜ化学の学会に行くかということから話を始めるべきでしょう。ことの始まりは、「月桃」なんです。
月桃といっても、すぐにこれが何であるかわかる人は、沖縄の人、あるいは僕のサイトをときどき読んでくださっている人以外には、非常に少ない。ほとんどの日本人は知らない。

月桃は琉球諸島に自生するショウガ科の植物です。英語ではShell Ginger、貝のショウガとも言われます。つまり、この呼び名が示すように、ショウガの一種なのです。美しい花は、月光に照らしだされる白い桃のようだということから、月桃となづけられました(と書いてしまいましたが、嘘か本当かは定かでありません。あくまで、僕の推測です。なんせ、大昔、名づけられた現場には居合わせていませんから)。学名はAlpinia zermubetで、これは16世紀のベニスの医者であり、植物学者であった、Prospero Alpiniに由来します。
琉球方言ではサンニンと呼ばれ、葉に独特の芳香があるため、昔から食物を包むのに用いられ、煎じてお茶としても飲まれてきました。また葉鞘は編み物細工、綱の原料として使われてきました。しかし、月桃がもつ、多彩な医学的効能はほとんど知られることなく、せいぜい、月桃茶に健康増進作用があるということで、地元の人たちに飲まれるくらいです。
ところが、この月桃には活性酸素を除去するためのポリフェノールが実に多く含まれており、僕が過去15年研究してきた植物の中でも、最高の抗酸化力を発揮する部類の植物であることがわかってきました。
植物は光合成により、水と二酸化炭素からブドウ糖と酸素をつくります。その際、大量の活性酸素も発生します。その活性酸素から身を守るために、ポリフェノールは活性酸素除去物質として活躍するのです。強い光を浴びれば浴びるほど、活性酸素と戦う手段が必要です。沖縄の太陽の勢いは違います。強く、たくましく、大空を沸騰させ、容赦なく熱と光を万物に注ぎ込みます。豊潤な森や林を繁茂させ、ありとあらゆる生物をおおらかに育み、強烈な原色で大地を彩ります。こういう自然環境では、植物は大量のポリフェノールが自衛のために必要なのです。

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