みなさんは、ベトナムという国に対してどのようなイメージを持たれているでしょうか?

アオザイとノンラーの(円錐形の藁でできた帽子)のんびりした国、

あるいはベトナム戦争でアメリカに打ち勝ったしたたかな共産主義の国、ちょっと古ければディエンビエンフー(世界を変えた56日間の戦い)、あるいはグルメであればホーや春巻きやブンチャー、投資家であれば、この機をのがさず投資を行わなければいけない国、世界遺産に詳しい人は、ホイアンの古い街並みやハロン湾。

私が初めてベトナムに行ったのは1999年です。大阪からホーチミン市に飛び、それからカンボジアの首都プノンペン、アンコールワットの遺跡、ラオスの首都ビィエンチャン、そしてベトナムのハノイと、いわゆるインドシナ三国を周遊したのです。そのころから、カンボジアやラオスとは比較にならないほど、ベトナム経済は繁栄への右上り曲線を描いていました。人々はとにかくよく働く。女性の社会進出がめざましい。そして、非常に頭が良い。数学のノーベル賞と言われるフィールズ賞受賞者を輩出した国は東アジアではベトナムと日本だけです。この賞は4年に一度、しかも40歳以下の数学者にしか与えられませんから、ノーベル賞より難しい。

そして、日本人にとって気持ちが良いのは、たいへんな親日国だということです。ホー・チ・ミン主席は実に偉かったのです。他国をけなすことは、自国に何の利益ももたらさず、かえって国家の発展を遅滞させることを熟知していたのです。経済学者ポール・ザックの名著、『経済は「競争」では繁栄しない――信頼ホルモン「オキシトシン」が解き明かす愛と共感の神経経済学』に書かれているように、国家レベルでも、経済は隣国に対する愛と共感で発展するのです。私は共産主義者ではありませんが、ホー・チ・ミンが大好きです。

彼は共産主義者というよりは、植民地にされ、抑圧された祖国を自由にするために共産主義という思想を利用しただけであり、本質はマハトマ・ガンディーと同じなのです。ベトナム・ホーチミン郊外にて 言いかえれば、マルクス・レーニン主義の衣服をまとったガンディーなのです。ホー・チ・ミンは「ゲリラ戦」でフランスとアメリカに戦い、ガンディーはイギリスに対し「非暴力、不服従」で対抗しただけの違いです。(右の写真はホーチミン市の郊外にある戦争史跡公園、座っているのは私で、後ろの写真がホー・チ・ミン主席です。暑いので、シャツに汗がにじみでています。ゲリラ戦に長けた南ベトナム解放民族戦線はジャングルに地下壕をつくり、そこから出撃したのです。)

先日(2016年4月21日)、月桃の植樹の件で10日ほどベトナムに滞在したあと、ハノイから関西国際空港に帰国しました。その際、乗客のなんと8割近くはベトナム人でした。みかけは日本人とほとんど変わりませんから、乗っているときは気づかなかったのですが、パスポートコントロールの日本人用の列と外国人用の列で、日本人用はぱらぱらと数人で、残りは全部外国人用の列に立ったのです。もっとも、そこに立っている外国人がすべてベトナム人ではないでしょうが、それにしても8割はベトナム人だと思われます。 訪日外国人のうちで、一番伸びたのはベトナム人で、10年前と比べると8倍を上回り、数としては中国人より少ないのですが、伸び率は中国を抜いています。また、日本に滞在中に使うお金は1人あたり約24万円でトップ。フランス人(18万円)などよりもはるかに多く使うのです。つまり、一言でいえば、ベトナムはたいへん豊かになりつつあるということなのです。

カルコンサプリメント

今回は、この勤勉で、聡明な親日国家がつくった、非常に優れたサプリメント「Chalcone」を紹介します。左の写真を見てください。このサプリメントをなぜベトナムがつくり、それをどのように国民に行き渡らせようとしているか説明します。きっとみなさんも、新しい視点から、ベトナムをごらんになるでしょう。アシタバ(明日葉)の茎を切断した時に滲みでる樹液に、黄色い色素をもったフラボノイド成分「カルコン(Chalcone)」が特に多く含まれています。「幸せの痩身法」のページに書いていますように、カルコンは善玉ホルモンであるアディポネクチンを増やし、内臓脂肪を減らしてくれます。ラズベリーに含まれているラズベリー・ケトン、プーアール茶などに含まれているテアデノールというポリフェノール、大豆タンパクのベータコングリシニン(大豆グロブリンの一種)などにも、アディポネクチンを増やす効果は知られていますが、アシタバ・カルコンはその比ではありません。

また、肝臓に脂肪が蓄積するのを抑制し、かつ脂肪を燃焼させてくれる働きも認められています。つまり、脂肪の代謝を非常にスムーズにするのです。

さらに、骨格筋におけるブドウ糖の取り込みを促進する働きが強いのです。細胞内の小胞に蓄積されているGLUT4(グルコーストランスポーター4)なるタンパク質は、インスリンによって細胞膜へ移動し、血液中のグルコースを細胞内に取り込みます。ところが、何かの理由でインスリンが不足したり、あるいはインスリンに対する細胞膜の感受性が低下したとき、GLUT4が細胞膜に移動しないため、血液中のブドウ糖が細胞内に取り込まれず、いわゆる糖尿病がおこります。ところが、アシタバ・カルコンはインスリンとは関係なく、GLUT4を細胞膜に移動させ、ブドウ糖の細胞内取り込みを促すのです。これは素晴らしい作用で、5年ほど前に神戸大学の研究者たちによって確かめられています。

また、ネズミを使った実験ですが、アシタバ・カルコンの一種キサントアンゲロールが神経芽細胞腫と白血病細胞で、アポトーシスによる細胞死を誘発することも証明されています。もう一つのカルコンの4-ヒドロキシデリシンをネズミに実験食として7週間与えると血圧上昇抑制が認められています。またPAI-1(パイワン:プラスミノーゲン活性化抑制因子)の活性をキサントアンゲロールBが非常によく抑制し、血栓をできにくくすることも認められています。

ベトナムの国立栄養研究所は、この優れたアシタバ・カルコンの濃縮粉末に、ビタミンC、ビタミンE、ビタミンD、β-カロテンなどを足したサプリメントをつくったのです。その商品名は、写真のように、ずばり、「Chalcone(カルコン)」です。

1カプセル中に下記が含まれています。

キサントアンゲロール 4㎎
4-ヒドロキシデリシン 2.2㎎
ビタミンC 35㎎
ビタミンE 3㎎
ビタミンD 200IU
β-カロテン 3㎎

みなさんが聞き慣れないキサントアンゲロールと4-ヒドロキシデリシンは、アシタバ(明日葉)の代表的なカルコンです。アシタバ・カルコンは10種類ほどあるのですが、この二つのカルコンがアシタバには最も多く含まれています。
ビタミンC、Eはカルコンの酸化を防ぐためです。ビタミンDが含有されているのは、ベトナムの都市部ではビタミンD不足の人が多いからということです。日差しが強いのに、なぜビタミンD不足がおこるのか不思議な気がしますが、人々は日差しがきついゆえに屋内で過ごす時間が多くなり、かえってビタミンDが欠乏してくるようです。これは、ハワイでも同じで、アメリカ本土と比べて、ハワイの住民は、非常にビタミンDが不足しています。人々は本土の人たち以上に紫外線を避ける傾向があるからです(ビタミンDは動物性の食事から、ある種のコレステロール、7-dehydrocholesterolとして最初、体内に取り込まれます。それが皮膚で、紫外線にあたることでビタミンD3に変換され、肝臓で25-hydroxyvitamin D3になり、さらに腎臓で1,25-dihydroxyvitamin D3となり、この最後のビタミンD3となってはじめて作用を発揮します。つまり、紫外線が必要なのです)。日本人もけっこう不足ぎみです。

ビタミンのサプリメントからの摂取にはさまざまな見解があります。特にビタミンCに関しては、極端な大量療法から、完全な否定派まで、ずいぶんと幅があります。日本の厚生労働省が定めているビタミンCの所要量は100mg/日ですが、その600倍の60g/日をすすめる治療家もいます。私は、アトピー性皮膚炎や他の何かの病気のときだけ、ビタミンCのサプリメントは2000㎎すすめていますが、普通にはすすめていません。しかし、1カプセル中、35㎎というのは、カルコンの酸化を防ぐためとしては、妥当な量だと考えられます。ビタミンEも同じく、妥当な量です。β-カロテンも長期にわたってとっても問題のない量です。つまり、非常によくデザインされたサプリメントだといえるわけなのです。このサプリメントを見た瞬間に、日本に輸入しようと私は即断し、本格的に輸入手続きを始めました。希望者にはお分けすることができます。

しかし、なぜベトナムは肥満・糖尿病・高血圧に効果的なサプリメントをつくらなければいけなかったのでしょうか? すんなりとしたアオザイ姿のベトナム女性は絵葉書になるくらい有名です。とても肥満というイメージからほど遠いものです。かつて、ベトナム共産党のホー・チ・ミン主席は、「侵略者」だけでなく「飢え」と「無知」もまた敵である、とベトナム人民に呼びかけました。それから、半世紀、ベトナムには「無知」はなくなり、「飢え」も克服されたはずでした。ところが、思いもよらないことが起こりだしたのです。それは、飢えの正反対、「肥満」です。

ベトナムの正式な国名は「ベトナム社会主義共和国」であり、周知のように共産党の一党独裁国家です。こう書くと、北朝鮮やかつてのソ連、ルーマニアを彷彿とさせ、いかにもくらいイメージになってしまいますが、そうではありません。ベトナムは1986年から、従来型のマルクス・レーニン主義を捨て、「ドイモイ(刷新)政策」をかかげ、市場経済を導入したため、急激な経済成長をとげています。そのため、むしろ豊かさへの熱狂と喧騒にみちた、希望のある、明るい社会と、私には見えるのです。だれもが、「ベトナム・ドリーム」を持ち、リッチになれる可能性があるのです。ドイモイ政策は成功しているのです。少なくとも硬直した旧ソ連流共産主義よりも、はるかにましなのです。 柔軟な路線をとるベトナム共産党は、あと10年は独裁を続けられるでしょう。

社会主義共和国の人民といえど、生活が向上しているのを実感するとき、反革命などおこさないのです。ハノイやホーチミン市の朝と夕方、バイクのすさまじいラッシュアワーを目の前にすると、この国は豊かさを目指して燃えていると、よく理解できます。未来に希望があるとき、社会は明るくなるのです。もちろん、集会や表現の自由に対する制限は残っています。しかし、それらが非常に自由であっても、難民問題で混乱し、出口なしのEUよりも、むしろ明るい社会かもしれません(西ヨーロッパの没落をいち早く見抜いたロシアのプーチンは、国際取引の通貨を今年2016年1月1日より、ユーロからドルに戻しました。この原稿が上梓される3日前の2016年6月24日にイギリスがEU離脱を決定しました。パナマ文書から始まるキャメロン首相の追い落とし → 国民投票 → 英国EU離脱 → 西ヨーロッパ衰退。この動きを見ていると、まるでプーチンが仕組んでいるようにさえ見えてきます。ちなみにロシアも意外とけっこう明るい社会なのです。あと10年、プーチンも政権の座にいすわることができるかもしれません。大衆は、言論・表現の自由よりも、強い祖国と経済を欲するものなのです)。

しかし、この熱狂と喧騒に満ちた急激な経済成長には、ホー・チ・ミン主席が予想もしなかった落とし穴があったのです。それは、肥満と糖尿病です。従来のカロリーの少ない食事から、豊かになった分だけ増えたカロリーが災いしだしたのです。ベトナムの国立栄養研究所によると、10年前と比べると、肉、牛乳、卵の食事に占める割合は17%上昇しました。ベトナムの家庭における食事は大きく変化したのです。特に都市部においては子供の体重が急激に増え始め、ホーチミン市内では肥満(19%)、過体重(22.4%)、合計41.4%が太り過ぎの状態になってしまっているのです。しかも、わずか5年間で倍増しています。また、肥満や過体重の増加に伴い、児童の高血圧も増えているということです。

ベトナムの伝統的な食事にかわって、油と獣肉の多い欧米のファストフードや、中国から入ってくる安物のインスタント麺類などが当然悪影響を及ぼしていますが、男女共働きの家庭が多く、朝食もインスタント風になってしまい、しかも学校給食がまだきちんと整備されていないため、子供たちはジャンクフードと甘いものに耽溺するようになってしまったのです。日本では、むしろ肥満児は徐々に減ってきており、男の子で7~10%、女の子で6~8%。アメリカでも子供の肥満率は減少の傾向にあります。

成人の場合、まだ肥満は少ないのですが、それでも増え始め、細身の「アオザイ美人」が減ってくるのではないかと危惧されています。ベトナム人成人の約25%に当たる2250万人が過体重あるいは肥満で、世界平均の39%を下回っているものの、増加傾向にあると警告されています。つまり、ベトナムも新世界症候群に襲われているのです。ホー・チ・ミンが懸念した「飢え」はなくなったものの、「飽食」が襲ってきたのです。

そして、肥満と糖尿病はよく合併します。肥満者に多い「白色脂肪細胞」から、TNF-αというサイトカインの一種の分泌が高まります。この物質は白色脂肪細胞内にあるインスリン受容体から、先に述べたGLUT4へのシグナル伝達を妨害します。すると、ブドウ糖が脂肪細胞になかなか取り込まれにくくなります。したがって、血糖値が下がらなくなり、膵臓はさらにインスリンを分泌し続けます。この状態が長期に続くと、ついに膵臓は疲れ切ってしまい、もはやインスリンを分泌できなくなり、本格的に糖尿病になってしまうのです。
したがって、ベトナムにも糖尿病が増えてきており、先進国以上に、糖尿病の問題が深刻になってきています。なぜ、「先進国以上」かといいますと、貧しい時代には糖尿病が少なかったため、人々が糖尿病という病気そのものをあまり知らず、かなり重症化してから病院にかかること。それに、患者さんの治療費に対する支払い能力に限界があること。また、田舎の医師が糖尿病についての正しい知識や治療に習熟していないこと。内分泌専門医の養成が不十分であること。これらが重なりあい、深刻な事態に追い込まれているのです。

ホーチミン市栄養センターの2012年に行われた調査結果によると、ベトナム全国の糖尿病患者と耐糖能異常者(糖尿病予備軍)を足すと18.5%となり、10年前と比べて糖尿病患者数は3.1倍、耐糖能異常者数は2倍近く増加したことになります。日本の場合、糖尿病患者の割合は5.4%ほどです(2015年)。糖尿病予備軍含めると2050万人(人口の16%)で初めて減少し始めました。ベトナムは18.5%と書きましたが、日本と比べて検診がしっかりとなされていないので、実際はもっと多く、おそらく20%はゆうに超えると推測されます。つまり、ベトナム人の5人に1人は糖尿病か糖尿病予備軍なのです。まだ十分に豊かでないベトナムでは、この5人に1人という数字は、きわめて深刻な事態なのです。糖尿病に対する治療には、国家として膨大な費用がかかります。人工透析に至る人の多くは糖尿病が原因で、外来血液透析で一ヵ月40万円の費用です。日本の場合、患者さんが払うのは月に1万円ですが、国としては年間500万円近くを1人当たりの患者さんに費やしているわけで、その費用たるもの年間1兆5000億円ほどです。ベトナムの人口は約9000万人で、日本の4分3ほどです。しかし、糖尿病患者さんの比率は1.2倍ほどありますから、3/4x1.2=0.9。したがって、もしベトナムが日本と同じグレイドの透析を国民に提供するとなると、1兆5000億円x0.9=1兆3500億円。GDPが日本のおよそ20分の1のベトナムにとって、透析だけに1兆3500億円という費用は、絶対的に不可能な数字なのです。

しかし、肥満増加はベトナムに限ったことではありません。一般的に、東南アジアの人々は急激に太りだしてきたのです。肥満率は、マレーシア>タイ>インドネシア>フィリピン(>ベトナム)の順で、ベトナムよりずっと高いのです。マレーシアが最悪です。今年2016年1月末にマレーシアの首都クアラルンプールに3泊したのですが、アメリカよりはましですが、確かに病的にまで肥満した人を数多く見かけました。さらにひどいのは、南太平洋の国々です。2013年の正月にはパラオとマーシャル諸島に行ったのですが、パラオの成人肥満率は47.1%、マーシャル諸島は42.3%で(ちなみにクック諸島の肥満率はちょうど50%!!)、相撲力士のような人々が、歩いています。ここまで肥満が増えると、もう国家レベルの危機になります。つまり、中世ヨーロッパでペストが大流行した際と同じ危機です。なぜなら、肥満は糖尿病だけでなく高血圧、動脈硬化、それに引きついで、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、また、認知症にも関係してきますから、国自体の存亡にかかわってきます。
ところがベトナム以外の肥満増加国は、国民に向かって「食生活の改善」、「運動の奨励」といった、お決まりの、しかも現実的にはほとんど実行不可能な対策しか訴えることができないでいるのです。そもそも、食生活を改善できず、運動も面倒くさくてしないからこそ太ってくるのですから。それができるなら、最初から太ってはこないはずなのです。そこのところを理解しないかぎり、マレーシアもタイもインドネシアもフィリピンも、国民はこれからますます太っていくでしょう。

これを最もよく理解したのが、ベトナムの国立栄養研究所(National Institute of Nutrition)です。ベトナムは肥満対策にサプリメントも採用したのです。当然、食生活の指導や運動を奨励しますが、それだけではだめだと、賢明なるベトナムは考えたのです。
1980年に設立された、ベトナム最大の国立栄養学研究所は、ハノイの中心地、官庁街にたたずむ、5階だての立派な建物を構えています。南北ベトナムが統一され、今の「ベトナム社会主義共和国」ができたのが1976年7月ですから、統一後すぐに設立された、国を代表する研究機関の一です。ちなみに、そこのスタッフの多くは、日本に留学した若手です。

その国立栄養研究所National Institute of Nutritionを率いるのは、Lê Danh Tuyen教授です。ハノイ医科大学出身で、オーストラリアの大学に留学されたので英語が達者です。専門は疫学とフードサイエンスで、博士号をもっておられます。日本にも4回来られた知日派です。ベトナム人の名前は、左から姓、ミドルネーム、名と順番に並びます。したがってLêが姓となり、Lê教授と呼ばれそうなのですが、ベトナムではTuyen教授と呼ぶのが習わしだそうです。なぜなら、ベトナムでは、Lê「レ(黎)」、Trần「チャン(陳)」、Nguyễn「グエン(阮)」という姓が非常に多く、この三つの姓だけで全体の60%、あと、Phạm「ファム(范)」、Phan「ファン(潘)」、Hoàng「ホアン(黄)」も含めると75%に達し、誰もがレさんであり、グエンさんであり、チャンさんなので、最後の「名」で呼び合うのがしきたりということなのです。
このトゥエン教授を筆頭にし、6人の準教授、25人の博士、33人の修士、90人の学生、16部門、130人以上のスタッフを抱える国立栄養研究所は、みずからビタミン・ミネラルのサプリメントをつくり、それらを国民に販売しています。
図のような組織になっており、地方レベルの「予防医学センター」と「妊娠・出産センター」は63、地区レベルの「予防医学センター」は698、「地方自治体健康ステーション」は11115あり、「コラボレーション栄養士」は330200人いるということです。

コラボレーション栄養士」とは、ベトナム語本来の「Cộng tác vien dinh duong」のGoogle翻訳で、英語のページでは「Nutrition Collaborators」となっています。彼らは行政の末端の村々の家庭を訪れ、母親や妊婦に栄養についてのコンサルティングを行い、また、すべての子供たちの健康状態、発育状態をモニタリングし、上の組織に報告する役目をはたしています。「国立栄養研究所」からまっすぐ末端「コラボレーション栄養士」までサプリメントがいきわたり、地方の農村・山間部まで、効率的に販売されるように組織立てられているのです。
国立栄養研究所の中に、NINFOODという部門があり、そこがサプリメントの製造・販売を行っています。NINはNational Institute of Nutritionの略で、そのFood部門ということです。つまり、サプリメントを厚生省自らがつくって国民に販売しているのです。そこがベトナムのユニークなところです。これは日本では考えられないことですが、国民も厚生省がつくったものですから、安心してのむことができます。非常に合理的です。マルクス・レーニン主義がうまく作動しないのであれば、適度にドイモイ(刷新)しましょうに通じる合理性です。このNINFOODが、アシタバ・カルコンから国民のために肥満対策用のサプリメントをつくったのです。

彼らが最初からアシタバ・カルコンを知っていたわけではありません。私がベトナムに何度も行くうちに、国立栄養研究所とも親しくなり、トゥエン教授と一緒に食事をしていたとき、肥満が話題になりました。そのとき、日本のアシタバ(明日葉)のことを、私が話したのです。
この植物は日本特有の植物で、数百年の昔から伊豆諸島で食用とされてきたもので、現在でもそこの島々ではさかんに食べられている。昔、伊豆諸島の一つ八丈島は流刑地であり、そこで強制労働に服していた囚人はアシタバ(明日葉)を食べて、体力を補っていた。17世紀に活躍した、医師であり、儒学者であり、かつ植物学者であった貝原益軒は、アシタバ(明日葉)の樹液を天然痘に塗るようすすめていた。その樹液には、特にキサントアンゲロールと4-ヒドロキシデリシンの二つのカルコンが多く含まれ、私の知る限り、その量は現存する植物のうち最高の量である。この二つのカルコンについては十分に研究され、効果と安全性に関する論文はいくつもでており、最近、アメリカのFDA(食品医薬品局)からも認められた。

アジア全体が、いま、急激に豊かになりつつある。それにしたがって、肥満も急に増えてきている。しかし、豊かな国=肥満国という考えは完全に間違っている。それは日本を見ればよくわかる。日本のGDPは世界で3番目だが、肥満率は世界192ヵ国中179番目の低さである。アメリカの肥満率の10分の1である。日本人よりスリムなのは、エトルリアとか北朝鮮とか東ティモールなどの国の人々であり、これはスリムというより食料不足のせいであり、彼らの寿命は日本人より15年ほど短い。
なぜ、日本人がこれほどスリムなのかは、日本人特有の遺伝子のおかげも一部あるかもしれないが、同じモンゴロイドであるベトナム人と日本人は、さほど違っているとは考えにくい。あるいは、和食のせいもあるが、ベトナム料理も野菜をふんだんに使い、日本では、ベトナム料理は痩身に役立つと紹介されているくらいである。ベトナムにも世界中のジャンクフードが入ってきているからでもあるが、それは日本でも同じことで、ベトナム以上にジャンクフードの数と種類は多く、24時間営業のコンビニエンスストアで真夜中でもジャンクは入手できる。しかし、日本では肥満率は徐々に減少してきている。
その大きな理由の一つは、日本では人々の健康意識が高いことである。日本人は自らの意志でジャンクフードをひかえ、運動もし、しかも健康に役立つサプリメントをよく摂っている。しかし、人々の健康意識を高めるには、教育が必要であり、教育ほどお金と時間がかかるものはない。ベトナムの肥満率の増大スピードでは、教育だけでは、おそらく間に合わないだろう。サプリメントも必ず役に立つはずである。

それから国立栄養研究所はわずか数ヵ月でアシタバ・カルコンのサプリメントをつくりあげ、マーケティングの調査を始めたのです。もちろん、GMP(Good Manufacturing Practice 適正製造基準)を合格した施設をもつ工場で、厳格な基準を守ってつくったのです。彼らの決断とスピードには大変驚かされます。この素早さはベトナムの壮絶な歴史を鑑みればよく理解できます。

中国と陸続きの小国が生き抜くためには、機敏な知恵と電光石火の行動力が必要です。モンゴル(元)だって3回襲来してきたのです。日本は2回とも、たまたま吹いた台風で国難を免れたのですが、ベトナムの場合は、もろにモンゴルの大軍がやってきたのです。しかも、3回!! そのつど、政府はジャングルに隠遁し、巧みなゲリラ戦で、モンゴル軍を撤退させたのです。運ではなく、実力で勝ったのです。そしてアメリカとのベトナム戦争。アメリカは枯葉剤散布というれっきとした戦争犯罪までおかしたにもかかわらず惨敗し、サイゴンは陥落したのです。”Fall of Saigon”です。もっとも、北ベトナムから言わせれば、陥落ではなく、サイゴン解放となるのですが。サイゴンはやがてホーチミン市と改名されます。歴史上の二つの超大国、モンゴルとアメリカに打ち勝った国というのは、やはりすごい。敵に回せばこれほど恐ろしい国はない。しかし、味方にすれば、文句なしに頼れる国です。

マレーシアのマハティール首相は「ルック・イースト」(日本を見習え)と国民に訴え、マレーシアの経済力を一気に引き上げました。しかし、国民の健康にまでは目がいかなかったようで、現在は東南アジア1位の肥満国の汚名を着せられています。フィリピンはアメリカの植民地だったため、大学教育はアメリカそのものの直輸入で、教科書はすべて英語です。したがって、栄養学もアメリカの栄養学そのままです。(しかし、肥満率が35%もある国の栄養学を手本にしても、何の役にも立たないくらいはわかりそうなものですがね)。タイやインドネシアも同じようなものです。ベトナムだけが先見の明があるのです。
特にタイとマレーシアは、医療費の極端に高いアメリカや、中国の富裕層からの患者を受け入れる医療ツアーに熱心です。そういう患者のための病院は、清潔で、先端の医療器具を備え、つくりも豪勢です。しかし、山間部の貧しい地域では基本的な抗生物質さえままならぬ状態です。まず、この異常な格差を是正するべく国は対処すべきなのですが、それがなされていない。
この状態を端的に表現すれば、タイとマレーシアは、医療が「金儲けの手段」になってしまい、それを政府が認めているということなのです。フィリピンでさえ医療ツーリズムでは世界8位であり、さらに政府はそれを発展させようとしています。もっとも、外国からくる金持ちからお金を稼いで、それを貧しい国民の健康向上に使おうという意図があるのかもしれませんが(しかし、あれだけ汚職のひどい国では、こういう美しい意図は夢のまた夢でしょうけれど)。いずれにせよ、「医療=金儲け」なのです。これが最後に行き着いた場所が、民間の健康保険会社に完全に牛耳られているアメリカです。あれほど、医療に関して、モラルもへったくれもない破廉恥な国は地上には存在しません。
これにいまだに頑強に逆らっているのは、ロシアです。たしかに、モスクワには外国人、一部のロシア人の富裕層のため病院は存在し、医療費は高額で、私費で払わなければいけません。しかし、基本はすべてが無料で、順番さえ待てば、心臓のバイパス手術でさえ無料です。もっとも、待っている間に、死んでしまいそうですが。しかし、尊ぶべきは、彼らの根本的な姿勢です。医療はすべからく平等に国民に行き渡らせるべきものであり、医療を金儲けの手段に貶めてはいけないという理想です。現実と理想はいつも、大きく乖離するものですが、資本主義社会には、そもそも初めからこの理想がないのです。
昔、ソ連から大阪に心臓専門医の視察団が来ました。大阪市民病院でのことです。天王寺公園前のホームレスの老人が救急車で搬送されました。急遽、高度なバイパス手術がなされ、患者は視察団がいる間ずっと入院していました。視察団の一人が、いったいこの患者の費用は誰がだすのかと聞きました。病院は、国が出すのだと答えたところ、彼らは、これこそレーニンが夢見た真の共産主義社会だと絶賛したのです。
ベトナムではホー・チ・ミン思想の授業が義務教育として行われます。大学でも、どんな学科を専門にする学生にも、行われます。この思想の根底にあるのは、良い意味での共産主義であり、差別を嫌い、階級格差がなくそうという根本的な願いがあります。暴走する資本に対するアンチテーゼがあるのです。このアンチテーゼというブレーキがない社会は、こと医療に関しては、いきつくところ、アメリカ流のむき出しの粗野で野蛮な拝金医療に落ちてしまうのです。タイ、マレーシア、フィリピンなどは、現在、アメリカ的な絶望の医療に向かって社会が動いていますが、ベトナムはそうはならないでしょう。ベトナムに大いに頑張ってもらいたいという気持ちです。

ベトナムは2011年にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加しました。この協定により、参加国の間では、基本的に関税は廃止されます。11の参加国(日本、ベトナム、カナダ、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド、オーストラリア、マレーシア、ペルー、メキシコ)で物が自由に動くのです。この協定の是非については百花繚乱、実にさまざまな意見があります。ただ、一言でいえば、より良い製品やサービスを地道に提供することできる国が、最終的には、この協定によって得をするということなのでしょう。つまり、それは日本とベトナムです。願わくば、彼らの「Chalcone」も、少なくともTPP加盟国にあまねく行き渡らんこと期待して止みません。

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