Part1 まずはサンフランシスコへ

ここで、間抜けな旅の達人が教える、意外とみんなが気づいていない旅の必需品とまでいきませんが、便利品を書いておきましょう。
まず、ボールペン。そんなことは言われなくてもわかっている、とは言わないでください。ポイントは数なんです。最低、4本はもっていくことです。1本では絶対に足りません。必ずどこかに消えています。これを「旅中ボールペン蒸発の法則」とよびます。2本でも不十分。3本で何とか。4本でやっと足りるのです。しかも、場所を分けてもっておくことです。ジャケットの胸ポケットに1本。シャツの胸ポケットに1本。カバンに1本。そのほか、適当なところに1本。仮に20本持っていっても、日本製のしゃれたボールペンであれば、余ればちょっとしたお土産やチップの代わりに使えます。
次に目薬。目が悪くなくても重宝です。長距離の飛行機に乗ったあとや、ホテルの朝の目覚めのときなど、目薬をさせば非常にさわやかになります。 それとバンドエイドです。しかし、このバンドエイドは、旅行鞄の中に入れておいては何の役にも立ちません。いつでもすぐに取り出せるように、財布の中に数枚入れておくことです。これは、旅行者の三種の神器です。
そして、無駄なものは、何といっても本です。ガイドブックは必要ですが、旅の途中の暇つぶしにもっていく本です。旅行しているのに、暇なんぞありません。10時間のフライトでも、映画がありますから退屈しません。むしろ、全部見るには時間が足りないくらいです。飛行機の乗り継ぎ時間が6時間もあるというケースでも、たいてい必要でないのです。なぜなら、多くの場合、非常に疲れていますから、待合室でうとうとしているか、せいぜいガイドブックを読むくらいの集中力しか残っていません。僕の友人で、旅行には岩波文庫のマルクスの「資本論」を必ずもっていくという男がいます。しかし、読むのではなく、睡眠薬代わりなのです。読んでいるうちに眠たくなるからだそうです。そういう睡眠薬代わりなら、話は別です。しかも、文庫本ですから軽いものです。
と、述べる旅の達人が、何を血迷ったのか今回ばかりは、「ハーパー・生化学」、「新ミトコンドリア学」、という巨大な本を2冊鞄の中に入れ込んだのです。なんせ、「化学」学会ですから。それに、ミトコンドリアは現代医学のトピックです。しかし、結局、毎年3月の末に買う、NHKの語学講座の薄いテキストと同じ運命をたどったのですが。つまり、2、3ページ、ぱらぱらと読み、それで終わり(それなら、薄い語学テキストをもっていけばよかったのに!)

ということで、巨大な本2冊(それと小さな本を4冊。さらに14足のユニクロの靴下、ユニクロのジーパン、結局インターネットが使えなかったPCとその周辺機器)という実に余分な重量を抱え込んだカバンと、靴ずれした足を引きずりながら、僕は2週間という駆け足の旅に出たのです。

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