Part3 ペルー

「神農」という古代中国の伝説上の皇帝をご存知でしょうか?生まれて3日後には口をきき、5日で歩き、7日で歯が生え、体は脳と四肢を除き透明で、内臓が外からはっきりと見えたといわれます。赤色の鞭で草木を打ち、百草を嘗めて毒か薬かを調べ、毒があれば内臓が黒くなり、これで毒の有無および影響を与える部位を見極めたといわれます。あまりに多くの毒草を試したしために、体に毒素が溜まり、本来もっと長生きするはずだったのに120歳で亡くなったという、本草学の元祖です。

シキークさん、ことアマゾンのヒポクラテスも、これに近い苦行をしていると言っていいかもしれません。なんせ、アヤワスカを飲むと激しい嘔吐、下痢といった症状に襲われるのですから。そして、幻覚から得られた知識を、そのまま患者に処方する前に、自分の身にも試したことでしょう。ストイックな風貌から、けっこうハードに研究し、活躍されている気配があります。そして、僕が感心したのは、こういう貴重な処方を、惜しげもなく、見ず知らずの日本人に教えてくれることです。それは、ハビエルさん、東江さん、という信頼がおける仲介者がいるからかもしれませんが、そうでもないところもあります。医学知識は万人に知らしめるべしという、おおらかさがあります。

4年ほど前にミクロネシアのヤップ島に行ったことがあります。そこの村人に何か面白い治療法があるかとたずねたときに、ガイドににべもなく断られたことを思い出します。よほど、親しくなってからでないと、そんな大切なことは教えないというのです。おそらく、アマゾンのシャーマンや治療師たちの精緻にして広大な知識と比べれば、ヤップ島の村人たちの知識は実に貧弱なものに違いないのですが、それでも、門外不出なのです。

ヤップ島の村人がことさら利己的であったというわけではなく、おそらく、彼らは部族間の抗争に勝つには、医学知識は非常に大切なものであるということを経験的に学んでいたのでしょう。つまり、医療を独占するものは戦争に勝てるという基本です。それは、生物兵器と発想を同じくします。その萌芽ともいうべきものでしょうか。

ブラジル側のアマゾンの中心都市、マナウスには世界じゅうの製薬会社の研究所があります。先住民の治療も研究されているはずです。彼らの意図は、アマゾンの先住民に使われている薬草などから、特許を取ることです。それによって、巨大な利益が生まれるわけであり、うまくいけば生物兵器にさえなりうるのですが、こういう発想は日本政府には皆無です。
シキークさんに、「外国から研究者がやってきて、あなたの部落に滞在して、あなたが行っている治療を調べたことがありますか」とたずねたら、「いやそんなことはない、そもそも外国人のドクターに会うことさえなかった」とおっしゃる。今、日本人に、私のおこなっている治療を説明できるのが、非常にうれしいという感じなのです。とても素直です。

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