Part1 まずはサンフランシスコへ

大学関だけでなく、ロッシュ、ファイザーといった世界最大の製薬会社もポスター発表をしていました。そういった大きなところとなると、1つの掲示板だけではたらず、数箇所でポスター発表をしているらしく、人手がたらず、写真のようにポスターだけを貼って、興味のある人は名刺を袋の中にいれとけ、あとでこちらから連絡するといった具合です。
日本からは武田製薬がやってきて新しい抗血液凝固剤のポスター発表をしていました。
動脈血栓性塞栓症治療薬TAK-442は、血液凝固過程において重要な役割を果たしているファクターXa(テンエー)因子を選択的に阻害することから、静脈・動脈血栓に起因する様々な疾患に効果を示す経口投与の新規抗凝固剤である、云々です。
実際に世に出るには、つまり我々臨床医がクリニックで使えるようになるにはあとどのくらいかかるかと、日本語で(担当者は日本人でしたから)たずねると、4、5年先だということでした。つまり、数年先を見ることができるのです。
その担当者は、ぼくの名札を見ながら、おたくはどこの会社から来られたのですかとききます。日本からもさまざまな会社からやってきているのです(そのため、サンフランシスコの日航ホテルはこの期間だけ満室です)。僕の名札には会社の名前など書かれていません。単にTadahiro Makiseと書かれているだけです。僕は大阪の開業医ですと答えると、大学関係、あるいはどこかの大病院でもないかぎり、話しても無駄だと思ったのか、あるいは単に、それ以上、何をきいていいか担当者はわからなかったせいか、黙ってしまいました。こちらも、何をきいていいかわからず、黙ったまま、その場を離れました。
武田製薬、ロッシュ、ファイザー、グラクソスミスクラインといったところの発表は非常に程度の高いものですが、中には、どこかの大学の大学院の学生が発表しているようなお粗末なものもあります。
たとえば、フラックスシードオイルはラット(ネズミ)の高血圧を下げる。これなど、わかりきったことで、すでに多くの研究者が確かめているはずです。30年以上も前の研究にもあります。そこで、ポスター発表を行っている学生風のおねーさんに、フラックスシードオイルと同じようにオメガ3系不飽和脂肪酸の多い魚油で、比較したことはあるのかとたずねると、していないといいます。じゃ、何でまだやっていないのかとたたみかけると、予算がないという答えです。おねーさん、ここは学園祭の発表と違うんやで、と言いたいのですが、つまり、玉石混淆というわけなのです。
しかし、学生時代から、こういった大きな学会で、くだらない研究でもどんどん発表させるということは非常にいいことなのでしょう。まず、度胸ができます。次に、質疑応答のいい訓練になる。また、朱に交われば赤くなるで、まわりがファイザーやロッシュであれば、今は程度の低い研究でも、やがておのずと高くなります。それに、まさに1000を超える研究発表を短期間で見聞できますから、視野が一挙に広がり、自分の研究がいかにお粗末なものか身に沁みてわかります。要するに、得るものはあっても失うものは何もないのです。日本は完成度の高い研究をという姿勢が強すぎ、学生にはハードルが高いすぎるきらいがあります。くだらないものでも、将来を考え、どんどん発表させるべきでしょう。
この玉石混淆の中から、きらりと光るものを探し出すのは、まさに宝さがしに似て、なかなか楽しいものです。

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