Part3 ペルー
アマゾン全域の奥深い密林に住む先住民の数と種類は膨大で、とても把握できない状態です。精力的かつ貪欲な欧米の研究者たちでさえ、決して網羅することができない、広大さがあるのです。未発見の孤立した種族も、ペルーとエクアドルの国境あたりにはまだいるようです。シキークさんや午前中に会ったカワサさんも、その近くあたりの出身です。現代文明から孤立した、そういう集団が独自に発達させた医療には、極めて独創的なものがあるはずです。接し方さえ間違わなければ、彼らはアヤワスカを飲んでしか得られないような貴重な処方を教えてくれそうです。次回、ここに来るときは、最低1週間は、まさにアマゾンの奥深くの部落に滞在したいものです。キャッツクローの樹液を数本の魔法瓶にいっぱい詰めて日本に持ち帰り、癌患者に飲ませたいものです。
おそらく、アマゾンの自然に住む人々がかかる病気には、それに対処できるように、自然のそのものの中に備わっていると考えるのは、さほど間違ってはいないでしょう。ペルーの国旗に描かれている木は、キナです。その樹皮からマラリアの特効薬キニーネができます。先住民はアヤワスカを飲んでその治療を獲得したのか、あるいはキナの木を見つめているうちに、キナの方から語りかけてきたのかもしれません。特に寄生虫病、出産に伴う病気、腫れもの(癌)、湿疹、咳、痙攣、腹痛、下痢、便秘、頭痛、そして不眠症やうつ。
こういった病気に対処する、様々な手段を身近な草木から得ているのです。自然は彼らに用意してあげているのです。ここで、読者は最後の不眠症やうつについて、いぶかしく感じられたかもしれません。アマゾンの未開人に眠れない者がいるのか、日がくれたら、夜明けまで熟睡する単純な連中だろうと。うつなんて、複雑な社会が生む病気だと。これは、まさに現代文明の中に住む人間が抱く、一種のおごりです。昨年のちょうど今頃、パプアニューギニアの離島での話です。最東南端のイーストケープから、さらに小舟で荒波を乗り越えること約1時間。ノーマンビー島のセワ湾に面した部落に滞在したときです。そこに深刻な顔で不眠を訴える村人がいたのです。7時を過ぎると、天空の星の光以外は、世界は真っ暗な闇に包まれます。そして、太古の深い海に沈んだかのように静かです。つまり、眠るには最適の環境なのです。日中、動き回っている僕は、疲れもあるせいか、床に入るや否や、数秒のうちに眠りこけてしまいます。しかし、この素晴らしい場所にあって、眠れない人がいるのです。
おそらく、アマゾンの先住民の間にも、不眠は存在するはずです。うつもあるでしょう。脳の構造は先住民も日本人もまったく同じです。言語は単純だろうと推測するのは間違いで、文字はないでしょうが、文法は英語よりはるかに難しいものもあります。精神の病は、現代文明に住む、「進んだ」人間が病むものであるというのは、たいへんな思いあがりです。そして、それに対する治療の一つはカヴァという植物にすでに見出されています。
この熱帯性の植物であるカヴァは、その根にカヴァラクトンという物質を含んでいます。作用機序は二つの説があります。一つは、大脳の奥深いところにある辺縁系という一つのシステムの中心的役割を果たす扁桃体(口の奥にある扁桃腺ではありません)に作用して、ヒトをくつろがせるという説。この辺縁系はヒトの感情や本能に最も深くかかわっているとされています。
もう一つの説は、神経伝達物質であるGABA(ガンマアミノ酪酸)を神経のレセプターにもっと受け入れられやすくするという説明。GABAがレセプターにくっつけばくっつくほど、ヒトはリラックスします。冗談みたいですが、KAVAがGABAに作用するというわけです。しかし、これも詳しいことは不明です。
実際、わからないことばかりなのです。要するに、研究やエビデンスの前に、効くから効くという単純な発想で、使われているのです。
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