Part3 ペルー
科学者としてのクレイグ・ベンターは、その恐ろしさを知りながらも、人工生命創生の魅力にとり憑かれ、やみくもに実験を継続し、やがて、世界最初の人工生命をつくった男として歴史に名を残すかもしれません。しかし、その最悪のケースがおこったときの対処の仕方の研究を、同時平行的に行っておく義務があります。これは科学者の義務です。アメリカ流の楽観主義による、何とかなるでは困るのです。しかし、名声欲と競争意識のかたまりのようなクレイグ・ベンターは、その義務を果たしそうもありません。彼の尻ぬぐいをする研究が必要なのです。
それを僕たちは、行っているのです。沖縄という小さな島の、世界的な視野でみると、名もない琉球大学農学部というひなびたところで、人工生命創生という華々しい研究から生じる危険を如何にくいとめるかの研究です。つまり、どんな新種のウイルスも増殖させない技術を確立しようとしているのです。
最初に少し書いたように、月桃はウイルスの増殖を防ぎます。そのメカニズムはウイルスが増殖に使う酵素の活性を阻害するというやり方です。しかし、ウイルスはどんどん変異していき、当然、酵素の構造や、酵素の使い方も、変えていきます。しかし、実験を繰り返していくうちに、わかってきたのですが、月桃はウイルスの酵素の使い方の最も基本的な部分に作用するようで、極端に言えば、どうやら、あらゆるウイルスが使うどんな酵素も阻害する働きを月桃はしているようなのです。
その働きの最も肝腎な部分は何なのか? おそらく、月桃に含まれている多くのポリフェノールのうち数種類が関与しているだろうというところまでは、わかっています。今、それをつきつめる最後の段階にまで研究はきています。それが、解明できれば、どんな新手のウイルスが現れたとしても、それが増殖できないようにすることが可能なのです。つまり、たとえ狂人が殺人ウイルスを創生したとしても、それを阻止できるわけです。クレイグ・ベンターよ、こういう地道な研究が、あんたがたが知りもしない遠いところで、行われていることを、ありがたく思っていただきたい!!
そして、この研究は軍事的にも極めて重要な意味をもっています。つまり、ウイルスをコントロールするテクノロジーをもった国は、世界を支配できるからです。仮に、ウイルスが増殖に使う酵素群の活性を奪う物質をAとします。Aを自国民には与え、殺人ウイルスを創生し、敵国にばら撒くのです。浄水池にウイルスを放り込む、あるいは空気伝染するのをつくる。略奪者コルテス、ピサロが南米に対して行ったことを、世界を相手に行うことができるのです。これもまた、ああ、恐ろしや、恐ろしや、なのです。
あんまり理不尽なことを中国やアメリカが要求するようであれば、首相、いっちょやりますか? 牧瀬クリニックにご連絡を!!
しかし、その前に、CIAあたりがやってきて、拉致されそうですね。あるいは、イランあたりから、「ドクター牧瀬、我が国のラボでご指導を」という依頼がくるかもしれません。100万ドル前払い、毎晩絶世のイラン美女つきやったら行ったるで、どや、ということですが、仕事が終われば、チグリス・ユーフラテス川に死体で浮いているかもしれませね。また、また、ああ、恐ろしや、恐ろしや、なのです。
(以上、月桃を使った抗ウイルス剤の研究以外は、すべて冗談ですぞ!!
冗談でもひどすぎると思われる読者は、これ以上、お読みにならないように)。
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