また、多くの武将たちが傷の治癒、体力の増強、精神の安定などに温泉を使ってきました。 真田幸村の別所(べっしょ)温泉、浅井長政の須賀谷(すがたに)温泉、武田信玄や上杉謙信の数多くの隠し湯、明智光秀の山代(やましろ)温泉、豊臣秀吉の有馬(ありま)温泉、徳川家康の熱海、など枚挙にいとまがありません。
いつ、暗殺されるかわからない時代には、その精神的ストレスは、並たいていではなく、現代以上だったに違いありません。
しかし、彼らは精神安定剤や抗うつ剤を使うようなことはなかったのです。彼らの精神の癒しも「温泉」を使ったのです。
ヒトのみならず。動物もその癒しの力を本能的に知っていました。「鹿の湯」をインターネットで検索すると、日本全国各地にこの名前のホテルを見つけることができます。 多くの場合、その温泉の始まりは、鹿が傷を癒しに集まってきたことに由来します。
鹿のみならず、熊、猪、猿、狐、狸、兔、狼、鷲、コウノトリ、白鷺など、さまざまな鳥獣が「湯池」にやってきたのです。
たとえば、日光から東武鬼怒川線と会津鉄道を利用して3時間弱で行ける湯野上(ゆのかみ)温泉には、「猿湯伝説」というものがあります。
猟師にうたれた手負いの猿が、その温泉につかって傷を治したという話です。
島根県の石見(いわみ)銀山の近くにある1300年の歴史を持つ温泉津温泉は、大きな狸がつかっていたのを旅の僧が見つけた、 あるいは大国主命が病気のウサギをお湯に入れて治したのが始まりともされています。— “温泉津”は、”ゆのつ”と読み、難読地名の一つです。
また、鳥取県の三朝温泉(みささおんせん)は、白い狼の伝説です。
850年も昔、大久保左馬之祐なる侍が、老いた白い狼に出会い、弓で射ようとしたのを見逃してあげたところ、その夜、左馬之祐の夢に妙見大菩薩が現れて、お礼に温泉の場所を教えてくれたとか。城崎(きのさき)温泉はコウノトリ、道後温泉や下呂(げろ)温泉や湯涌(ゆわく)温泉は白鷺など、いわゆる開湯古潭は全国いたるとこにあります。
これは、いい換えれば、すでに伝説の時代から、温泉は動物実験を経て、その効果が証明されていたようなものなのです。
最近の「ウルトラ・オーガニック」製品は、動物愛護の精神から、動物実験さえ行っていないことをうたい文句にしています。フォアグラを食いながら、こういう宣伝をする人たちの精神構造は、私の理解が及ばないところなのですが、温泉は歴史的に動物・癒し実験さえ行ってきた最高にBeyond Organic なのです。